いつも通りに、日吉と待ち合わせ、いつも通りに、朝練へ向かう。よし、順ちょ・・・・・・。



“♪♪♪”



「っ!・・・・・・。」



『From:向日先輩
 本文:わりぃ!もう少しかかりそう!』



「どうかしたのか?」

「・・・・・・いやぁ〜、なんか、私、忘れ物したみたい。お母さんが、わざわざメールくれて。ちょっと戻ってもいい?」

「わかった。なら、俺は先に・・・・・・。」

「ちょっと待った!い、一緒に来てもらってもいい?」

「珍しいな。いつもなら俺が行くと言っても、先に行けと言うくせに。」

「それなら日吉だって珍しいじゃない。いつもなら、一緒に戻ろうとしてくれるのに。」

「もう何度もそういうやり取りをしているんだ。それで無駄だとわからないほど、俺は馬鹿じゃないんでな。・・・・・・大体、毎回断られる、こっちの身にもなれって話だ。」

「ん?何か言った?」

「何のことだ?」

「・・・・・・気のせいか。ううん、何でもない。それで、一緒に戻ってもらってもいいの?」

「嫌なら、普段から行くと言ったりしない。」

「そっか。ありがとう。」



何とか、うまくいきそうだ。
私は、日吉と並んで、今来た道を戻る。・・・・・・途中。



“♪♪♪”



『From:向日先輩
 本文:やっぱ大丈夫!』



「ご、ごめん、日吉!どうやら、お母さんの勘違いだったみたい。私もちゃんと確認すればよかった、ハハ・・・・・・。ごめんね?」

「そうか。」



日吉は特に怪しむ様子もなく、私たちはまた学校の方へと向かって歩き出した。
しかし。その後も度々、向日先輩からのメールが届き、さすがに部室前に着く頃には、不審そうな目を向けられるようになった。



・・・・・・、今日おかしくないか?」

「そ、そう?」

「何度も靴ひもを直したり、歩くスピードもいつもより遅かったり、・・・・・・。何か嫌なことでもあるのか?」

「ううん!そんなんじゃないよ。」



でも、どうやらバレてはいないみたい。よかった。



“♪♪♪”



『From:向日先輩
 本文:もう入っていいぞー』



「それに、今日はメールの数も多くないか?」

「まぁまぁ、とにかく、部室に入ろうよ!」

「あ、あぁ・・・・・・。」



まだ納得のいっていなさそうな日吉の背を押し、半ば無理矢理、部室に入らせた。
その瞬間。



“パン、パーン!!”


クラッカーの音が鳴り響く。そして・・・・・・。



「「「「「「誕生日、おめでとう!」」」」」」

「!」

「わー!ビックリした〜・・・・・・。あ、日吉〜。おめでとー・・・・・・Zzz」

「来年は無理だからな。今年、こうして盛大に祝ってやることにした。ありがたく思えよ、日吉?」



鳳くんと樺地くん、さらにもう引退されたのに、今日のために来てくださった先輩方が日吉へお祝いの言葉をかけた。
それに続き、私も笑顔で日吉の方を向く。



「今日、私の行動が少しおかしかったのは、こういうことでしたっ。というわけで、日吉。お誕生日おめでとう!」



しかし、一方の日吉は一瞬驚いたあと、すぐに普段の顔に戻り、さらには呆れた表情になった。



「・・・・・・鳳、樺地、何をしている。」

「え、何って・・・・・・。」

「近くに大会が無いからと言って、気が抜けているのか?」

「そういうことじゃないけど・・・・・・。」

「だったら、さっさと練習を始める準備をしろ。」

「で、でも・・・・・・!」

「いいな?」

「・・・・・・うん、わかったよ。行こう、樺地。」

「ウス・・・・・・。」



鳳くんと樺地くんが着替えようとして、私は急いで扉の方を向いた。



「先輩方も邪魔なので、早く出てください。」

「なっ・・・・・・!お前、俺らがせっかく・・・・・・!!」

「わざわざ、ありがとうございました。ただ、誰もこんなことをしてほしいなんて言ってません。それに、全員がそうだとは言いませんが、向日さんの場合、自分が騒ぎたかっただけなんじゃないんですか。」

「お前なー・・・・・・!」

「す、すみません。とにかく、出ましょう、先輩方。」



そのまま、先輩方も促して、私は部室から出た。



「・・・・・・え〜っと。本当に、すみませんでした。」



外に出て、私は頭を下げ、あらためて先輩方に謝罪の言葉を述べた。



が謝ることねーよ。本当、ムカツクぜ、日吉の奴!」

「まぁ、そう言いなや、岳人。日吉も、照れとっただけかもしれんで?」

「そうか?俺には、若が喜んでるようには見えなかったけどな。」



宍戸先輩の言う通り。日吉は素直じゃないことも多いけど、今回のは本気だった。
もちろん、そんなことを言うわけにはいかないけど。



「でも、直接祝えたんだから、それでいいんじゃないかな。」

「こうでもしなきゃ、コイツは祝えなかっただろうしな。」

「・・・・・・え?何か言った〜・・・・・・?Zzz」



滝先輩と跡部先輩の温かいお言葉に、もう一度頭を下げる。



「すみません。あとで、ちゃんと言っておきます。」

「気にせんでええよ、ちゃん。そや、プレゼントだけは渡しとってくれるか?部室に置いてきてしもたからなぁ〜。」

「はい、わかりました。皆さんの分、責任を持ってお渡しします。」



先輩方とは別れ、私も部活へ戻る。朝練中も、後輩に当たったりするわけではないけれど、日吉の機嫌は決して良いものではなかった。
・・・・・・う〜ん、そんなに嫌だったの?
とりあえず、先輩方からのプレゼントを渡すため、私は部室でお昼ご飯を食べようと、日吉に提案した。・・・・・・そのときも。たしかに、日吉は普段からも真面目だけど。やたらと、私用で使うわけにはいかないなどと反論され、誘うだけで苦労した。
何とか、部室の片付けをするから、ということにして、渋々了解を得たけど・・・・・・相当ご機嫌斜めかも。
それでも、渡さないわけにはいかず、今朝先輩方が用意してくださった飾りなどを簡単に片付けた後、ご飯を食べ、先輩方のプレゼントを用意した。



「あの・・・・・・、日吉。」

「・・・・・・何だ。」

「これ、先輩方が用意してくださった、日吉への誕生日プレゼント。」

「・・・・・・。」

「せっかくだから、ね?」



私が少し困った笑顔で言うと、日吉は仕方なさそうに受け取ってくれた。
・・・・・・本当に嫌みたい。



「そんなに迷惑だった・・・・・・?」



恐る恐る尋ねると、日吉は大きなため息を吐く。
お、怒られる・・・・・・?



「俺があんなことをされて喜ぶとでも思ったのか?」

「そ、それは・・・・・・。」



たしかに、日吉はあんな賑やかにされるのは好きじゃないかも知れない。でも、先輩方となら、忍足先輩の言うように、素直には言わないだろうけど、何だかんだで少しぐらいは楽しんでくれるんだと思ってた。まさか、ここまで機嫌を損ねるなんてことは思ってもいなかった。
・・・・・・せっかくの誕生日だというのに、日吉を喜ばすことができなかった。大好きな日吉のことなのに、私はわかっていなかった。そう思うと、胸がキュッと苦しくなる。



「その・・・・・・ごめんなさい・・・・・・。」



それだけを言うので精一杯で、私は下を向く。そこへ、また日吉のため息が聞こえてきて、尚更顔を上げることができない。



「・・・・・・別に。お前が謝る必要は無い。」

「え・・・・・・?」



だけど、意外にも日吉からかけられた言葉は優しくて。思わず、日吉の方を見る。



「どうせ、あの人たちが言い出したことだろう?」

「う、うん・・・・・・。でも・・・・・・。」



たしかに、提案してくださったのは先輩方。でも、それに賛成したのは私。日吉に嘘をついてまで、今朝部室に連れて行ったのは私・・・・・・。そんな私が悪くないわけない。日吉に嫌な思いをさせたのなら・・・・・・と私はまた下を向く。
そこに聞こえたのは、今回はため息ではなく。



「・・・・・・俺が子供染みていた。悪い。」



予想外の言葉に、私はポカンとして、日吉を見つめる。



「子供染みて・・・・・・?」

「ああ・・・・・・。」



日吉はあっさり言うけれど、私には意味がわからなかった。不思議に思っていると、今度は言いにくそうに日吉が口を開ける。



「・・・・・・せっかく祝ってもらえるのなら、1番にお前に祝ってほしかったんだ。は、あの人たちのついでのように言ったから。」

「そ、そんなことないよ!」

「わかってる。だから、俺の態度を見て、落ち込んでたんだろう?」



日吉は少し情けなさそうに、弱々しく微笑んでくれた。・・・・・・もう。せっかく日吉の誕生日なんだから、私に気を遣ったりしなくていいのに。それに、こんな嬉しいワガママなら、もっと言ってくれたらいいのに。



「じゃあ、部活終わった後、祝い直していい?」

「・・・・・・わかった、頼む。ただし、あの人たちは要らないからな。」

「ふふ。それじゃ、2人でお祝いしようね!」



こうして迎えた部活後。さっき片付けた飾りを少しだけ飾り直して、日吉を待つ。もちろん、マネージャー業は早々に終わらせたから、ゆっくり祝えるよ!
そんなことを思っていると、もう一部屋と繋がったドアがノックされる。その扉が開くと同時に、私はクラッカーの代わりの拍手を目一杯鳴らした。



「おめでとう、日吉!」

「・・・・・・ありがとう。」



ほんの少し照れくさそうに、でも笑顔で、日吉はお礼を言ってくれた。
その後、私が作ってきた簡単なカップケーキを食べ、私からのプレゼントを渡す。朝に比べると、こんな静かなお祝いだったけど、日吉は楽しそうにしてくれて、私も嬉しかった。



「来年も一緒に過ごそうね。」

「来年は初めからだけで祝ってくれよ?」



冗談・・・・・・ではないかもしれないけど、少なくとも私には嬉しい言葉だったから、最後は2人笑顔で誕生日会を終えた。
・・・・・・それに。来年も一緒に、って言ったら、日吉は当たり前のように返事をしてくれた。それが私にはすごく嬉しいことだって、日吉はわかってる?・・・・・・わかってないんだろうな。
お互い、わかってないこともまだまだあるけど、だからこそ、これからも一緒にいようね。













 

頑張った・・・!日吉くんの誕生日だけは、どうしても外せなくて、何とか書き上げました。・・・と言っても、11月中ごろに書き終えていましたが(笑)。
いやいや、やっぱり書くのが遅い私ですからね(苦笑)、それぐらい早めに出来ていないと不安なんです。

それにしても、久々の日吉夢です。本当、ごめんよ、日吉くん。メインなのに・・・(苦笑)。今年は、そこそこ忙しかったんですよねー。まぁ、来年も同じかなとは思いますが・・・(笑)。
まぁ、今後もマイペースにやらせていただきますが、よければお付き合いくださいませ。それでは、また来年!(←)・・・うん、もう今年のアップは無理そうです(苦笑)。もちろん、できる限りは頑張りますっ!でも、無理だろうな・・・;;

('11/12/05)